吉崎の伝説:「嫁威(よめおどし)肉付きの面」
 
むかしむかし蓮如さまが吉崎におられたときの話や。十楽村に嫁の清さんと婆さんが住んでいたんやと。清さんは三十三歳やったんや。かわいそうにの、二人の子供が次々と病にかかって死んでしもうた。ああ、と思っていたら、夫の与三次さんも急病にかかってなくなってしもうたんや。
  清さんはの、世の無常をさとって吉崎御坊へ参って、蓮如さまの話をきいて信者になったのや。それでの、昼はたんぼや畑を耕し、婆さんの機嫌をとって、夜、手がすくと一里(約四キロ)の山道を歩いて吉崎御坊へお詣りしたんや。ところがおもと婆さん、それが気にいらんで、家宝の鬼の面をかぶって途中の谷間でおどし、こわがらせて吉崎詣りをやめさせようとしたんや。
  うわあーと鬼がでたじゃから、清さん、とびあがってびっくりしたやろの。だがの、心をしずめ「食まば食べ 喰わば喰え金剛の 他力の信はよもやはむまじ」と口ずさんで、念仏申し申し吉崎へ詣ったんやそうな。さてさて、婆さんは「うまくいったぞ」と家へ帰り、面をすみやかにとろうとしたら、とれんのや。むりにとろうとすると、血が流れ出ていたむんや。手も足もしびれてしもうたんや。こわいこっちゃ。ばちがあたったんやろの。清さんはお詣りをすませ、家へ帰って「ただいま」と戸をあけて中へはいると、谷に出た鬼がいるんで二度びっくり。「助けてくれ!清さん」といわれて、婆さんとわかって、とってあげようとするが、とれんのや。孝行ものの清さんも困ってしもうたんや。婆さんはとってほしいが、とってもらえんので大声あげてなくんや。
  そこでの、清さんは「蓮如さまのおおせには、いかなる者も弥陀をたのめば仏になるとおっしゃった」と、婆さんの一番きらいなお念仏をすすめたんやと。さすがの婆さんも涙をながして話す清さんをみて、「清さん、面をかぶっておどしたわたしが悪かった。かんにんしての」「いやいやお婆ちゃん、わたしにあやまらんでいいですよ。面がとれないから困るんでしょう。どうぞお念仏を・・・」生まれてからはじめて「なむあみだぶつ、南無阿弥陀仏」と清さんのすすめでとなえたんやと。

  あらあらふじぎやの、清さん、手でもってひくと、すっととれんや。二人は大喜
び、手に手をとりあって吉崎御坊へかけつけ、蓮如さまに事のしだいをお話しし、面をおあげしたんやと。蓮如さまは喜ばれ、婆さんにお念仏のありがたいことをとかれたんやと。それからは婆さんも信者になって、二人手をとりあって吉崎へ蓮如さまのお話を聞きにやってきての、仲よくくらしたんやといの。嫁おどしの面は蓮如さまが吉崎を出られるとき、「末代のみせしめにせよ。参詣者の方々にこの話を聞いてもらい、家中のもの仲よう念仏もろとも楽しく生きてくださるよう伝えてくれよ」と吉崎御坊に残していかれたんやと。
右の写真:嫁威(よめおどし)絵伝
左の写真:「嫁威肉付面畧縁記」版木
この頁は「吉崎御坊の歴史」図書刊行会より、一部転載いたしました。